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溜息(仮)その2         小説を作るチャレンジ

 ベンジャミン・フォレスティアは 40間近の独身 

 

少し良くない噂もあったが 快活な紳士だ

 

がっしりとした体格と 日焼けした顔 きれいに撫で付けられた髪

 

彼がいるだけで その場が明るくなる

 

「フォレスティアさん いえ 僕はそういうつもりでは・・・」

 

ローガンが言いよどんだ 

 

苦手だ ということが周りから見てもすぐにわかる

 

「いいんだ ローガン・メルローズ

 

 君には 君の権利がある 

 

 だが 私は この場にいる紳士淑女すべてのために

 

 こちらの女性をさらっていくぞ!」

 

ベンジャミンは フィビィに恭しく礼をして 手を差し出した 

 

 親友を置いて行くのか それとも 救いの手をとるか

 

悩む間を与えることなく ベンジャミンに少し強引に手を引かれ

 

フィビィはその場から離れる

 

「強引ではありません?」

 

咎めるように言う

 

「美しい人が 昆虫の話で その顔を歪めることに比べたら 

 

なんということはない

 

紳士の務めとは そういうことさ」

 

フィビィの方を向きもせず 会場の中央を見据えて宣言した

 

フィビィは縋るように懇願する

 

「でしたら あの娘も一緒に・・・」

 

「すまない 姫よ 

 

 騎士というのは 片手で姫を抱きかかえ

 

 もう片方の手で 手綱を握る

 

 故に 一人しか救えないのだ」

 

 紳士から すぐに今度は騎士になりたがる

 

 ベンジャミンが頭の固い連中に疎まれる理由の1つだ

 

 

 

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 この国で3番目に大きいこの街で 

 

3番目に信用のある銀行の頭取の3男が フィビィに話しかける

 

「祖父の教えなんです

 

 毎晩同じ時間に 同じ量の ブランデーを

 

 同じ時間をかけて味わう

 

 そういうときでさえ 私たちは常に数字に正確です」

 

 フィビィは 少し困ったような顔を作り 言う

 

「私たち 女性には 到底出来っこありませんわ

 

 だって 毎朝 同じように髪を整えたとしても

 

 その日の日差しと 咲き始めた花を見た途端に

 

 今日のための髪型に整え直さないといけないんですもの

 

 同じ時間で なんて悲しくなってしまうわ」

 

  3男坊は 自分が失敗したことに気が付いた が 

 

弁解をする前に ナイト気取りのベンジャミンに肩をたたかれ

 

美しい未亡人に 話しかける順番が 終わったと悟った

 

 数字にうるさい 3ばかりの敗者が立ち去ると

 

ベンジャミンは襟元を正し フィビィの正面に立つ

 

「さぁ ではここからが 今宵の最も重要かつ重大な話だ!」 

 

「そうですね フォレスティアさん」

 

フィビィは俯いて 少し息を飲む

 

美しい獲物を前に ナイト気取りは ハンターになろうとしていた

 

この後の展開が どうなることかも知らずに・・・

  

「あの二人よ!!」

 

美しい唇から発せられた 突然の 興奮したかのような言い草に 

 

歴戦錬磨のベンジャミンも意表をつかれる

 

「昆虫狂いに捕まった あの娘を助けなくては!!」

 

 今度はフィビィが 親友のナイトになろうとしている

 

ハンターになり損ねた彼は 平和を説いた

 

「待ちたまえよ 

 

 君の親友が 昆虫のエサになるわけでもあるまい

 

 二人は会話を楽しんでいるに過ぎない」

 

 フィビィは不服をありありと浮かべた顔で 一応頷いてから

 

「そ・こ・が・問・題・で・す!」

 

 と 40間近の男に  ゆっくりと 諭すように言った

 

諭された側が ただ ゆっくり動くフィビィの唇にだけ

 

視線をやっていることには気づくこともなく 

 

彼女は興奮の蒸気機関に薪をくべていく

 

「何のために ここにいるとお思いですの?

 

 どこだか 知らないジャングルの虫の話をするため?

 

 山奥に行くお金が足りないと言って しょんぼりするため?

 

 何も 今夜でなくてもいいでしょう!

 

 先週 教会でも同じようなことがありましたのよ!!

 

 それだのに 私の優しいオーラは断ろうともせずに

 

 話に付き合ってあげているんですのよ !!」

 

 ベンジャミンは情けなくも 

 

白旗を揚げたくなるような気持ちに誘われたが

 

それを振り払うように とびっきりの笑顔を作る

 

 「あの男が 君の親友の心を射止めることができると

 

 思っているのかい? 安心したまえよ 

 

 虫を捕まえる金にも苦労している男だぜ

 

 今の彼は 何も手入れることはできないさ」

 

 フィビィは内心呆れていた  そ・ん・な・こ・と! 

 

ローガン・メルローズが オーラの心を射止めるだって?

 

自分の親友のオーラという人をなんだと思っているのか?

 

自分とオーラの間に疑いが入る余地があるとでも思っているのか? 

 

 ベンジャミンのことを一瞬 間抜け だと見誤りそうになったが

 

彼の優しい瞳を見て考えを改めた

 

「オーラは まだ 彼の事を想っているのだろう?

 

 私は 彼のことも 君の愛した人のことも 幼い時から知っている

 

 二人とも愛すべき 男だった 

 

 知性に溢れ 快活で 気持ちの良い そんな人間だった

 

 狩りに行こう チェスをしよう 酒を酌み交わそう

 

 彼らと共に 過ごしたいことは たくさんあった」

 

 フィビィの夫だった人も オーラの元夫も 誰からも好かれる人物だった

 

名のある家に生まれ 清く 正しく 生き 行動した

 

誠実で 勇敢で 愛する気持ちを大切にし 祖国に忠実だった

 

 彼らは 戦争で 祖国のために命を捧げて戦った

 

そして あっさり 若い命を失い

 

いまだ 若い 美しい女性を 未亡人に仕立て上げた

 

 フィビィを落ち着かせようと あの若者たちのことを

 

話題にしたのがいけなかった 

 

ベンジャミン・フォレスティアは敬虔な気持ちに包まれ

 

もはや 未亡人を口説こうなどと 微塵も思えなくなってしまった

 

 大きく一つ 溜息をついて フィビィに一礼し

 

「今宵は もう仕方がない 

 

 変人から 君の親友を奪い返す企てをしようじゃないか!」

 

ベンジャミンはフィビィのもとで作戦に参加することを了承した

 

 

                     つづく

 

 

 

 

 

 まとめるのって 難しい・・・